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2025年3月12日

人材から人財への道のり::Vol.74::PDCAのCについて(アップデート版)

業務の進め方に関して、「Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)」の頭文字を取って「PDCA」と名付けられています。 PDCAサイクルは、1930年代にアメリカの統計学者ウォルター・A・シューハートによって開発されました。彼は、品質管理のために統計的手法を基にした継続的な改善サイクルを提案しました。しかし、この手法が広く普及したのは、著名な品質管理の専門家であるW・エドワーズ・デミングの貢献によるものです。デミングは第二次世界大戦後に日本でこの手法を指導し、日本企業の生産プロセスの改善や品質向上に大きく貢献しました。

そのため、PDCAは「デミングサイクル」とも呼ばれることがありますが、実際にはシューハートの研究を基にデミングが発展・普及させたものです。このように、PDCAは日本で広く普及し、頻繁に用いられている手法です。

この手法では、まず業務計画を立て、それを実行し、結果をチェックした後、対策を講じて次の計画へと進むというサイクルを繰り返します。基本的な流れはこの通りですが、個々の業務において「誰がどの役割を担当すべきか」が明確になっていることが重要です。業務には、上司・部下・管理者・実行者といった異なる立場の人々が関わるため、適切に業務を分担する必要があります。管理者の視点からPDCAを考える場合、「Plan(計画)」は主に管理者の役割であり、「Do(実行)」は担当者が行うものとされます。  また、「Check(評価)」については管理者もチェックを行う必要があり、「Action(改善)」は主に実行担当者が考え、提案を行い、その後、管理者が次のPDCAサイクルや目標(KPI)を設定する、といった考え方が基本となるのではないでしょうか。

ここでは、PDCAサイクルの中の「チェック(Check)」の重要性について考えてみたいと思います。 実は、私が尊敬する日本の経営者の大先輩に「管理者の最も重要な役割はチェックだ」と言われたことがあります。それほどチェックは極めて重要なプロセスです。 しかしながら、このチェック業務がベトナム人にとって得意なものかどうか、皆さんはどう感じていますか? 私自身を振り返ってみても、計画(Plan)を立てることには非常に興味がありますが、チェックを徹底することは少ないと感じます。 これは私だけの話ではなく、多くの人に共通する傾向かもしれません。特に、若い中間管理職の中には、部下との衝突を避ける傾向があるため、チェックを十分に行わなかったり、行っても徹底的ではない場合があるように思います。

そもそも「チェック」については、「ダブルチェック」という考え方で捉えるのが正しいのではないかと思います。本来であれば、実行担当者がまず自分でチェックを行い、その後、上司が最終チェックをするという流れが理想的です。

しかし、一般的なベトナム人スタッフの場合、自分でチェックせずにそのまま上司に回してしまうことが多く、結果としてすべてのチェックの負担が上司に集中してしまうという問題が発生しています。本来であれば、実行担当者が「最高のものを仕上げる」というプライドを持ち、「このレベルまで求められている」という意識を持つべきです。  しかし、現実には「上司がチェックしてくれる」「ボスが最後に見てくれるから大丈夫」といった甘い考えが根強く、その結果、上司に負荷が集中しすぎるという状況が生まれています。 

そのため、上司は単なる「ミス探し」に終始せざるを得ず、部下に指導したり、修正を指示したりするだけでなく、修正後の確認まで行う必要があり、結果として業務全体のスピードが低下するという悪循環に陥ります。 このような状況では、チェックが好きな人がいないのも当然であり、その気持ちはとてもよく理解できます。

つまり、ベトナムでのビジネスオペレーションにおける一つの欠点は、担当者が自らチェックし、自己検証を行っていない点にあると言えます。もしそれが実践できれば、当初は上司が細かく指導するものの、次第に部下も成長し、フィードバックは「よくやった」という評価へと変わっていきます。その結果、業務のスピードが向上し、チェックの目的も単なる確認作業ではなく、成功を称える「C(セレブレート)」として認識されるようになります。こうして、「Check」ではなく「Celebrate」を中心とした新たなPDCAサイクルを構築することも可能になるのです。

さて、実行担当者が自己のチェックとしてどう担保するか、という点が課題になります。ここではさまざまな方法が考えられ、弊社でもいろいろと試してきました。

一つの方法としてダブルチェック、つまり実行担当者同士で相互にチェックし合う仕組みを導入しました。しかし、これにはあまり効果がありませんでした。というのも、チェックする側とされる側の思考やスキルレベルがほぼ同じであり、さらに管理者ではないため、チェック自体が形式的な作業になりがちで、精度の低いものになってしまったからです。その結果、チェックを行ってもレベルが向上せず、理想的な水準には達しませんでした。

次に、チェックリストを用意し、それに従って作業を進めてもらう方法も試しました。これは一定の効果がありましたが、チェックリストのルールをしっかり守れているかどうかを定期的に確認する必要がありました。また、チェックリスト自体の更新作業も発生するため、長期的に運用する上でクリアすべき課題も残りました。

そして、最近試しているのが人工知能(AI)を活用したチェックです。理想的な仕事の進め方としては、上司が部下の仕事をチェックし、改善点を指導することで、より良い成果を出せるようサポートすることです。しかし、スピードが求められる現代では、上司の力量だけでこれを実現するのは難しい場面もあります。

そこで、AIを上司のアシスタントとして活用し、部下の仕事をチェック・指導し、フィードバックを提供するのは合理的な方法と考えられます。人間の上司であれば、思わず「どうしてこんなこともできないのか」と口にしてしまうリスクがありますが、AIには感情がないため、そのようなプレッシャーを与えることなく、部下が自己学習しやすい環境を整えることができます。この点で、AIの活用は非常に有用だと言えます。

現在のAIの力では、アウトプットにばらつきが生じることがあり、その結果、評価自体にズレが生じる可能性があるという欠点があります。しかし、それでも部下が納得し、その評価を受け入れて改善につなげられるような工夫が必要です。例えば、AIのチェック精度を高める仕組みを整えたり、AIの評価結果の一部を人による評価と組み合わせたりすることで、能力向上を後押しする方法が考えられます。

それでもなお、AIを活用することで、自己チェックが苦手だったベトナム人の業務改善が進むのではないかと大いに期待しています。そうなれば、私自身も苦手なチェック業務から解放され、「C(セレブレート)」を軸とした新たなPDCAサイクルを実現し、より明るく前向きなマネジメントに取り組めるのではないかと楽しみにしています。

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プロフィール
Nguyen Dinh Phuc
E-mail: nguyen.dinh.phuc@hrnavi.com
Tel: 097 869 8181

国費留学生として、選ばれ、1996年~2006年まで日本で留学と仕事を経験したのち、ベトナムに戻り、日系企業に対して、経営助言のコンサルティングをしました。ベトナム人は比較的にレベルが高くないという実態をなんとかしたく、2010年からアイグローカルリソースを創設、ベトナムにある人材のレベルアップを会社のミッションに、日々、努力しています。

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