2024年12月11
仕事上で情報共有のためにメールをCCすることは非常に一般的なことであり、日本では特に特筆すべきことではありません。しかし、日本ではメールの共有が過剰になりすぎ、CCを多用しすぎた結果、情報が溢れかえり、処理しきれなくなったり、それがプレッシャーになったりするという課題も指摘されています。一方、ベトナムでは情報共有が重要であると理解されているものの、意図的にやり取りを上司に共有しなかったり、ループメールの途中で関係者を外したりすることがよく見受けられます。その理由については明確にはわかっていませんが、個人差があるように思われます。ただし、一般的な傾向として、ベトナム人は任せられている仕事に関して、やり取りの過程を上司に共有せず、メールをCCしないことが少なくないようです。
私の部下にベトナム人の社員がいます。彼女は能力が特別に高いわけではありませんが、私の下で約10年働いており、経験や知識が豊富で、任せられる仕事も多くあります。彼女にはさまざまな業務を担当してもらっており、サプライヤーとの交渉もその一つです。しかし、時々彼女のネットワークでは適切なサプライヤーを見つけられないことがあり、その場合は私の知り合いが関与するサプライヤーを紹介し、SNSやチャットアプリでグループチャットを作って仕事を進めてもらうようにしています。
ところが、しばらくするとグループチャットでのやり取りがなく、仕事が進んでいないのではないかと心配して確認すると、実際には個別でやり取りをしていて進捗があることがわかります。新入社員ならまだしも、彼女はベテラン社員です。それにもかかわらず、個別でやり取りし、ボスである私に情報共有をしない理由が理解できませんでした。そこで彼女に理由を尋ねると、「ボスに迷惑をかけたくないから」という説明でした。
しかし、私はこれまで何度も「情報は共有してほしい」と伝えており、そうすることでダブルチェックや早めの助言が可能になることを説明してきました。それにもかかわらず、彼女は同じ行動を繰り返しています。そのため、彼女の説明は本心ではないのではないかと感じています。
この話は彼女の例に過ぎませんが、他のスタッフにも共通する現象として見られます。つまり、情報共有の重要性をしっかり説明し、その場では理解しているように見えても、実際の行動には反映されていないということです。行動理論によると、人が実際に行動を起こすには2つの条件が必要です。1つ目は「頭で理解できること」、2つ目は「感情面でも納得できること」です。頭で分かっていても、心が納得しなければ行動にはつながりません。このケースでは、情報共有やメールのCCについて彼女の頭では理解しているかもしれませんが、心の中では完全に納得していないのではないかと思われます。
ここで一つの仮説が立てられます。それは、情報共有やメールをCCすることに対して「不都合」や「恐怖」を感じている可能性があるということです。もちろん、悪意を持って途中経過を隠し、何か不正を企んでいるケースも理論上は考えられます。しかし、弊社のような小規模な会社では扱う金額も小さく、大企業の購買部のような状況ではないため、この動機は考えにくいでしょう。残る可能性としては、情報共有やそのプロセスにおいて、自分のやり方を注意されたり叱られたりするのを避けたい、もしくは単純に面倒だと感じているのではないか、という点が挙げられます。
私は普段から細かい指摘をしたり、相手のモチベーションを下げるような行動をしないよう心掛けています。実際に、幹部クラスや他のスタッフでは、情報共有やメールのCCに関して全く問題が起きていません。
そこで残る説明として考えられるのは、私のスタッフが過去の経験、特に学校や家庭での経験において、情報共有に関して良い思い出がなく、むしろ怒られることが多かったため、自動的に情報を隠し、共有を避ける行動を取るようになったのではないか、ということです。この仮説が正しいと思えるような状況をいくつも見てきました。
私自身の経験でも、ベトナムがまだ貧しい時代に、両親は生活のために必死に働き、私たち子供と会話をする時間がほとんどありませんでした。おそらく、両親も生活の苦労からストレスを抱えていたため、何か相談や話をすると、応援されるよりも怒られることの方が多かった記憶があります。もちろん、両親は私たちのことを思ってくれていたはずですが、褒めたり激励する機会は少なく、逆に怒られることが多かったのです。
そのため、「情報を共有する=怒られる可能性が高い」という認識が心に根付いてしまい、情報共有や相談を避ける行動パターンを無意識に取っているのではないかと考えられます。怒られることで心が痛むのを避けるため、自分を守る壁を作り、その結果、情報共有が行われにくくなっているのではないでしょうか。
もちろん、ベトナム社会や一般的なベトナム人の認識は年々変化しています。特に教育環境や学校の風潮も大きく変わりつつあり、私の親戚の子供たちを見ても、自分から積極的に話しかけたり、情報共有を自然に行える世代が育っています。そのため、あと1~2世代、10年から20年もすれば、現在活躍している世代とは異なり、情報共有に対する抵抗感を持たない新しい世代が出てくるだろうと予想しています。
一方で、情報共有を恐れている世代への対応については、感情面でのアプローチが合理的だと考えられます。つまり、単に情報共有の重要性を論理的に説明するだけではなく、感情を共有し、相手の心に働きかけることが必要です。
たとえば、「情報共有してもらえるとダブルチェックや助言ができるので助かる」とか、「共有してもらえないとこちらとしてはとても心配です」、「手伝いたくても状況がわからず手伝えないのがもどかしいです」、「進捗が見えないと不安です」といった感情を何度か伝えることで、心に響く効果が期待できるでしょう。こうしたアプローチの方が、相手にとっても納得しやすく、行動を変えるきっかけになりやすいのではないでしょうか。
おそらく、ボスの努力次第で部下の心に響き、徐々に「報・連・相」が自然に行われる組織に変わっていくのではないでしょうか。相手の感情に寄り添いながら根気強く働きかけていけば、情報共有への抵抗感も和らぎ、より円滑なコミュニケーションが実現できると思います。
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国費留学生として、選ばれ、1996年~2006年まで日本で留学と仕事を経験したのち、ベトナムに戻り、日系企業に対して、経営助言のコンサルティングをしました。ベトナム人は比較的にレベルが高くないという実態をなんとかしたく、2010年からアイグローカルリソースを創設、ベトナムにある人材のレベルアップを会社のミッションに、日々、努力しています。
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