Blog

2025年1月15

人材から人財への道のり::Vol.83::日系企業の採用は難しくなっているのか?

仕事の関係でお客様からよく聞かれるのが、「企業の相対的な競争力が低下しているため、人材採用が難しくなっているのではないか」ということです。その背景として考えられるのは、ベトナムにおいて韓国企業や近年進出している中国企業の存在感が高まっている一方で、日系企業はコロナ以降の円安の影響を受け、海外進出が難しくなっていることです。その結果、日系企業の相対的な存在感が低下している、という状況がこの質問の背景にあると思われます。

    ベトナムの外国直接投資(FDI)は、過去5年間で安定した増加傾向を示しています。2023年には、FDI認可額が前年比24.4%増の280億6,639万ドルに達し、特に製造業への投資が顕著でした。 国別に見ると、シンガポール、香港、中国、韓国からの投資が上位を占めています。日本からの投資は5位で、認可額は36億2,351万ドル(前年比20.5%減)となり、減少傾向が見られます。一方、中国、香港、台湾からの投資は件数・金額ともに前年比で約2倍の増加を示し、特に中国企業の投資が増加しています。韓国からの投資も引き続き高水準を維持しており、特に電子機器やモジュール製造分野での投資が目立っています。これらのデータは、ベトナムにおける外国企業の投資動向が多様化していることを示しており、日系企業の投資額が減少する一方で、中国や韓国企業の投資が増加している傾向が確認できます。 Jetro

日系企業が優秀な人材を確保できない背景として、サービス料を十分に引き上げないことが挙げられます。サービス料を上げないため、社員に十分な給料を支払えず、結果的に社員が我慢を強いられる状況が続いています。一方で、ローカル企業、韓国企業や中国企業はサービス料を積極的に引き上げ、その資金で優秀な人材を獲得している傾向があります。この違いが、日系企業が人材確保で苦戦している主な理由と考えられます。

日系企業が現地での採用や人材定着に苦戦している背景には、文化的な要因や経営スタイルの違いが関係していると考えられます。Cクラス(経営層)の採用を例にすると、日系企業では本社主導の経営スタイルが一般的で、現地のCOOやCEOに大きな裁量を与えない傾向があります。このため、優秀なローカル人材を採用しても、自由度の低さや日本のやり方とのギャップから短期間で退職してしまうケースが多いようです。

一つの事例として、ある優秀なベトナム人幹部は、保険数理資格を持ち、日系企業で高給を得ていましたが、日本特有の細かい準備や意思決定プロセスを「無駄」と感じ、3年以内に転職しました。その空いたポジションには、日系企業の文化ややり方に精通し、本社からの信頼を得ているローカル人材が起用されています。ただし、その人材は現地に対する深い理解や保険数理などの専門資格面では劣っている状況です。総じて、日系企業では現地人材に十分な裁量を与える柔軟性が不足しており、これが採用や人材定着の難しさを引き起こす要因となっています。

中間管理職については、大きく2つのタイプに分けて考えることができます。

1. 日本人管理者の指示のもとで動く中間管理職
このタイプは、主に組織の運営をサポートする役割を担います。日系企業では、日本のやり方や文化を理解し、日本語が話せる人材が重宝される傾向があります。そのため、日本のスタイルに馴染んでいない中間管理職を採用することは少ないようです。こうした人材は、安定した環境を求める人にとっては働きやすいものの、組織に変革を起こすようなタイプではない場合が多いです。

2. 経営感覚を持ち、組織運営に主体的に関与する中間管理職
経営能力のある中間管理職については、日系企業では現地化が進んでいないため、こうしたスキルを十分に発揮できないケースが多いです。その結果、経営能力のある優秀な人材は、より裁量を与えてくれる非日系企業に転職する傾向があります。日系企業では経営への関与を期待されないため、スキルが持ち腐れになりやすく、優秀な人材が流出する原因の一つになっています。

一方で、経営的視点や変革力の乏しい中間管理職は、日系企業の環境に慣れやすく、働き心地が良いため、長く留まる傾向があります。しかし、こうした人材が多いことで、日系企業内では大きな変化や進歩が起きにくい状況が続いていると考えられます。このため、日系企業は優秀な人材を流出させる一方で、現状維持に留まる中間管理職が多く残る構造になりがちです。

スタッフレベルの採用についても、大きく2つのタイプに分けられると考えられます。

1. 新卒の未経験者を採用し、育成するタイプ
このタイプの採用は、日系企業が得意とする分野です。新卒で何も経験がない真っ白な人材を採用し、自社の文化ややり方に合わせて育成していく方式は、日系企業の強みと言えます。また、ベトナムでは失業率が比較的高く、新卒採用が比較的容易である点も追い風となっています。さらに、ベトナムは親日的な国で、日本語学習者が多く、日本に留学経験のある学生も多いため、日系企業への応募は活発です。このため、新卒採用においては、非日系企業との競争も少なく、日系企業が優位性を保っています。中長期的にも、この採用方式に大きな問題はないと見られます。

2. 経験を持つ中途採用のスタッフレベル
一方で、第二新卒や中途採用のスタッフレベル、特に高い能力を持つ人材(例:ITエンジニアや高度な語学スキルを持つ人材)については、日系企業でのキャリアに魅力を感じず、より裁量が大きく成長機会の多い非日系企業に転職する傾向が強いです。特に、能力の高い人材は、自分のスキルを最大限に活かせる環境を求めるため、日系企業に留まることが少なく、結果的に非日系のグローバル企業や大手企業へ流れてしまいます。

総じて、日系企業は新卒の未経験者を育成することには強みがありますが、経験を持つ優秀な人材の引き留めや獲得には課題があり、非日系企業との競争で劣勢に立つケースが目立っています。この構造は、長期的には日系企業の競争力に影響を与える可能性があります。

まとめると、日系企業は新卒採用に強みがあり、安定した採用と優秀な人材の確保が可能です。新卒者を育成し、社内で成長させることで、人材プールが形成されます。しかし、その人材プール内の動きにはいくつかの問題があります。

- 日系企業内で転職を繰り返し、プール内で循環する人材は一定数いますが、育成された優秀な人材が非日系企業へ流出する傾向が強まっています。
- 一方で、非日系企業から人材を採用しても、日系企業特有の文化や経営スタイルに馴染めず、十分に活躍できない場合が多いです。

その結果、日系企業の人材プールが薄くなり、育成した人材が外部に流出してしまうことで、新卒採用の効果が低下し、コストパフォーマンスが悪化する可能性があります。この循環構造が、日系企業の人材戦略における課題として浮き彫りになっています。

これらを総合的に考慮すると、日系企業が人材獲得や競争力強化を目指すためには、以下の2つの助言が考えられます:

1. ローカライズを進める
日系企業特有のやり方に固執せず、現地の文化や経営スタイルに適応することで、非日系企業を含む広範な人材プールから優秀な人材を採用・活用することが可能になります。これにより、特に優秀な人材が日系企業を避ける傾向を抑え、人材の多様性を高めることができます。

2. 新卒採用を強化し、優秀な中間層を育成する
日系企業の強みである新卒採用をさらに強化し、採用した人材を中間層へと成長させる育成プランを構築することが重要です。これにより、日系企業内で人材プールを循環させるだけでなく、人材流出を防ぎ、企業全体の人材力を向上させることができます。

最終的に目指すべきは、新卒採用と育成を活用して中長期的に自社内で優秀な中間層を形成するとともに、柔軟な経営スタイルで幅広い人材を受け入れ、ジリ貧状況を回避することです。

―――――

プロフィール
Nguyen Dinh Phuc
E-mail: nguyen.dinh.phuc@hrnavi.com
Tel: 097 869 8181

国費留学生として、選ばれ、1996年~2006年まで日本で留学と仕事を経験したのち、ベトナムに戻り、日系企業に対して、経営助言のコンサルティングをしました。ベトナム人は比較的にレベルが高くないという実態をなんとかしたく、2010年からアイグローカルリソースを創設、ベトナムにある人材のレベルアップを会社のミッションに、日々、努力しています。

人材から人財への道のり